べんべんリレーBLOG
第117回 孤島への空想旅行
特約店委員会委員長 平澤威海
これまであまり人に話したことがない、私のちょっとした趣味の話です。私は、家に居ながら地図上で旅行を楽しむ空想旅行が好きで、よく出かけます。ただ、有名な観光地を巡ることはしません。人がほとんど居そうもない僻地や孤島ばかりを狙って旅をします。
私の旅ではGoogleの地図を使います。まずは地形図を見て旅先を探し、ここぞと思うポイントを見つけると、航空写真に切り替えて細かく状況を観察します。そして、最後にそのポイントの地名をインターネットで検索して、情報や画像を収集します。収集した情報や画像を特に記録することはありません。あくまでも一期一会的な出会いを楽しむだけだからです(そもそも記録したところで何の意味もないのですが。)。
個人的には、人の気配が皆無の人跡未踏の地よりも、僅かな人たちが住んでいたり、かつて人が暮らしていた跡があったりする場所の方が魅かれます。どうしてそんな所に人が住むようになったのか、そこでどのようにして暮らしているのか、そしてどうして人が消え去ってしまったのか、そういった想像(妄想の方が正確かもしれません。)を膨らませることができるからです。僻地や孤島といった厳しい環境で生きる人々、かつて生きた人々の人生を思うと、寂寥感や哀愁といった、何とも言えない切ない思いがこみ上げてきます。
ところで、私の興味をそそるような旅先は、陸続きの僻地であれば山岳地帯やあまり道路の通っていない場所を探すことで比較的見つけやすいのですが、絶海の孤島のような場所となると、なかなか見つけることができません。一期一会的な出会いを楽しむということで、基本的にはインターネットのまとめサイトのようなものは利用せず、大海原を流離いながら、旅先となる島を探します。ここぞと思うような島を見つけたときには、宝島を見つけたかのような軽い興奮すら覚えます。
そんな私が、先日、一冊の本に出会いました。旧東ドイツ出身の著者による「ATLAS DER ABGELEGENEN INSELN」(邦題:奇妙な孤島の物語)という本です。サブタイトルには「私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう55の島」とあります。もう、書店で見つけた瞬間に心を射抜かれました。
本の内容はというと、著者が興味を持った55の島を取り上げ、その位置と人口に関する情報、人の痕跡がある部分だけを色分けしたシンプルな地図とともに、その孤島にまつわるエピソードが添えられています。エピソードは、孤島の発見から現在に至るまで、そこで起きた大小様々な事件・出来事を一つだけ取り上げて1ページにまとめられています。楽しいストーリーはほとんどなく、ちょっと物悲しいような狂気じみたような話ばかりです。著者はもちろん現地に行ったことなどなく、文献調査によって得た情報を基にこの本を書き上げたようです。私の趣味を極めたその先にある集大成のような本といえます。私にとってはバイブルみたいなものです。Googleを片手に、時間をかけて拝読しました。
皆さんは、北極海に「孤独」と呼ばれる島があることをご存知ですか? インド洋に、今でも原住民たちが文明との交流を拒否して外界からの上陸を許さない島があることは? 太平洋に、女性として世界初の大西洋単独横断飛行を成し遂げたパイロットが流れ着いたと思われる無人島があることは?
さて、孤島への空想旅行に少しでも興味は沸きましたでしょうか。何が面白いのかよく分からない? それならそれで一向に構いません。私の心の中にある孤島が、人の興味の的になることもなく、精神的にも孤島のままであり続けられるのですから。