べんべんリレーBLOG
第150回 北海道・宗谷本線の廃駅
不動産管理委員会委員長 広瀬元太郎
私は電車に乗るのが趣味である。この趣味が高じて、日本中の鉄道(JR線、私鉄、路面電車、地下鉄等)には全て乗ってしまった。この話を他人にすると必ず聞かれるのは、「どの線が一番いいですか」との質問である。場所によって面白さに違いがあるので、一概には答えにくい質問であるが、北海道の旭川から稚内を結ぶ宗谷本線を挙げることが多い。終点稚内が近づくにつれ、人跡未踏の原野やどこまでも続く牧場、日本海上にそびえる利尻富士など、息をのむような景色が展開される。
もともと北海道は人口密度が低いのであるが、宗谷本線の沿線は、おそらく日本で一番人口が希薄なエリアである。そのため、ここ最近、駅の周辺の人口がゼロとか一桁人となり、すごい勢いで駅が廃止されている。5年前までは全部で52駅あったのが、今年の3月15日までに18駅(35%)が廃止され34駅になってしまった。残っている34駅の中には、一日の平均乗降客数が1人以下という駅が数駅あり、今後も予断は許されない。
2025年3月、久しぶりに宗谷本線に乗ってきた。そして、今年の3月に廃止される予定である稚内市の抜海駅を訪問した。「ばっかい」と読む。
近くに大きな岩が小さな岩を背負っているように見える岩があり、アイヌ語のパッカイ・ぺ(子を背負うもの)が駅名の由来である。終点稚内から数えて3駅目の駅で、日本で3番目に北に位置する駅である。終点稚内と次の南稚内は駅員がいるので、日本最北端の無人駅でもある。
3月とはいっても北海道の北端はまだまだ冬である。周辺の牧場も線路も道路も全部雪に覆われている。数名の鉄道マニア(私もそうなのだが)が駅で写真を撮っている。廃駅まぢかになると人が寄ってくるは世の常である。駅の周辺には町はなく、一番近い抜海集落まで2キロ程度の距離がある。2キロを歩くのは大変なので、駅に来るためには自動車を使う必要がある。この駅に停車する列車は上り4本、下り3本しかなく、駅まで来る自動車があるなら、目的地まで自動車で行ってしまった方がはるかに早い。残念ながら、公共交通機関としての役割はもう終えてしまっている。
ここ数年、鉄道全線に乗るために日本中を旅行したが、それらの旅は、地方の衰退を見る旅でもあった。特に、駅前の商店街の衰退ぶりは目を覆うばかりである。北海道はいうまでもなく、近畿地方の比較的大きめの町でも、駅前商店街はシャッター街と化している。出生数が年間70万人となり、日本の人口は減少中であるが、過疎地の人口減少はすさまじく、このように日本列島の端から順に駅が廃止されていっている。過疎地の現在は、未来の日本である。
人類の勢いは衰えているのだが、最大の天敵である人間がいなくなったため、人間以外の動物は一気に数を増やしている。北海道では、野生のエゾシカの生息数がこの25年で倍近くとなっており、農作物の食害や自動車との衝突が問題となっている。
この日も日本海に沈む夕陽の写真を撮っていると、数頭のエゾシカが夕陽の前を駆けて行った。