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第158回 自筆証書遺言の「日付」とは?
出版委員会第3部会副部会長 國祐伊出弥
自分自身が亡くなった後、できるだけもめごとが起こらないようにと、自筆証書遺言を既に作成しておられる方も多いかと思います。
さて、この自筆証書遺言ですが、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められ(民法968条1項)、原則として、これらの要件を満たさなければならない、方式が厳格なものであるということをご存知の方も多いと思います(例外はあります。)。
自筆証書遺言は、公正証書遺言と比べて、いつでも、どこでも、費用をかけずに作成できる点でメリットがあるのですが、その分、方式に不備が生じやすく、その有効性が裁判で争われた事案も多くあります。
例えば、日付についてみると、「昭和41年7月吉日」と書いたために、上記要件の日付の記載を欠くと判断され、無効とされたケースがあります。
ここでは、その日付について、近時争われた裁判をご紹介したいと思います(最高裁判所第一小法廷・令和3年1月18日判決・判例時報2498号50頁ほか)。
事案は、平成27年4月13日、Aさんが、入院先の病院で、遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書したが、押印は、退院して9日後(全文等の自書日から27日後)の同年5月10日に、弁護士の立会いの下、行ったというものです。
Aさんは、5月13日に亡くなりました。
ちなみに、本件遺言の内容は、Aさんが、内縁の妻と、内縁の妻とAさんとの間の子らに遺産を遺贈又は相続させるというものでした。戸籍上の妻と、戸籍上の妻とAさんとの間の子が、日付等を問題として本件遺言は無効だと主張しました。
最高裁は、本件遺言は直ちに無効とはならないと判断しました(最高裁は、日付以外に無効とする事由がないか審理させるために名古屋高裁に差し戻しましたので、本件遺言を有効と判断したわけではない点には注意が必要です。)。
その理由は、概ね、次のとおりです。
・自筆証書遺言の日付は、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないところ、本件遺言が成立した日は、押
印がされた平成27年5月10日というべき。
・そうすると、本件遺言書には、この日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記
載されていることになる。
・しかしながら、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要す
るとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にある。
・そうであるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあ
る。
・したがって、本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから
といって直ちに本件遺言が無効となるものではない。
確かに、書類をひととおり書いて、印鑑だけ後日ということは、日常生活では見受けられますよね。立て込んでいるときや、じっくり考えたいときにこういうことはありますよ。
本件では、最高裁は「遺言者の真意の実現」という観点から、無効とはしませんでしたが、原審(名古屋高裁)では無効とされていたので、微妙な事案だったといえるかもしれません(その意味で、前提とする事実が少しでも異なれば、異なる判断にもなり得るわけです。)。
もめごとが起こらないようにとせっかく書いた遺言が無効だと争われて、もめごとになっては、遺言者としては、本当に残念なことだと思います。
日付についてこのように争われるという事態を回避するためには、1日で一気に遺言を完成させるのが無難かもしれません(内容や事情によっては難しいこともあるでしょうが・・・)。
いずれにしましても、ご自身で、自筆証書遺言を作成する場合には、事前に文献を活用して要件、方式等を確認していただければ思います〔手前味噌で恐縮ですが、大阪弁護士協同組合が発行している「遺言相続の落とし穴【改訂版】」(大阪弁護士会/遺言・相続センター運営委員会編)は大変読みやすい書籍ですので、まずは、これに目を通していただけますとありがたいです。〕。
もっとも、前提とする事実が異なれば、異なる判断にもなり得ます。
したがいまして、文献の活用、確認と併せて、弁護士に相談することをお勧めいたします。









