べんべんリレーBLOG
第169回 新人弁護士、法廷ものを見る
出版委員会第2部会委員 三浦雄一郎
弁護士になって、1年半が経ちました。
私は昔から映画やドラマが好きで、法廷ものもよく見ます。法廷ものを見ていると、主人公が新人や若手の弁護士であることが意外と多いことに気付きます。経験も実績もない主人公が、いきなり難事件を任され、先輩に怒られたり、依頼者に振り回されたりするだけでなく、想定外の様々なトラブルに巻き込まれる。それでも、持ち前の情熱とエネルギーで最終的には大変いい仕事をする。もちろん、新人弁護士であってもプロですので、トラブルだらけでは困りますが、妙に親近感が湧くところがあります。
せっかくなら、若手のうちに見ておいた方が面白いのではないか。そんなことを考えて、修習生の頃から最近にかけて、いろいろな法廷ものを見てきました。まだ見ていない名作もたくさんありますが、今回は比較的最近見たものの中で、印象に残った作品を紹介したいと思います。
『レインメーカー』
ロースクールを卒業したばかりの新人弁護士が、凄腕弁護士軍団を擁する巨大悪徳保険会社を相手に訴訟を起こす映画です。新人が知恵と度胸で格上に挑む法廷ものの王道です。手続法の知識を法廷で瞬時に引っ張り出せるとかっこいいなと思いました。
『弁護人』
後に韓国の大統領となる盧武鉉の弁護士時代をもとにした映画です。苦学して弁護士になり、経済的に成功した主人公が、ある事件をきっかけに国家権力を相手に刑事弁護に挑みます。儲かる仕事をしていた弁護士が、正義に目覚め、損得抜きで刑事弁護にのめり込んでいく姿が格好いいです。こういう青臭さはいつまでも忘れたくないと思います。
『SUITS/スーツ』
ニューヨークの大手法律事務所を舞台に、敏腕弁護士ハーヴィーと、驚異的な記憶力を持ちながら弁護士資格のない青年マイクが、さまざまな案件を解決していくドラマです。会話は洒落ているし、スーツは格好いいし、交渉は毎回鮮やかに決まる。実際の弁護士業務とはだいぶ違う気もしますが、「仕事のできる弁護士って格好いいな」という初心を思い出させてくれます。まずはデスクをきれいにすることから始めたいと思います。
『情婦』
アガサ・クリスティ原作、ビリー・ワイルダー監督の法廷ミステリーです。殺人事件の被告人を弁護する老練な弁護士と、事件の鍵を握る被告人の妻を中心に、二転三転する裁判が描かれます。古い白黒映画だからと侮るなかれ、会話も展開も驚くほど洒落ていて、最後までまったく飽きさせません。証人尋問の面白さと恐ろしさが詰まった一本です。個人的イチオシ作品です。
『弁護士のくず』
豊川悦司演じる型破りな弁護士・九頭元人と、新人弁護士の武田真実が、さまざまな依頼者の事件に取り組むドラマです。九頭先生は、一見するといい加減で、とても模範的な弁護士には見えません。しかし、人間の弱さや本音をよく分かっていて、最後には依頼者にとって必要な解決にたどり着きます。弁護士になってみると、法律的に正しい答えを出すことと、依頼者にとっていい解決をすることは、案外別なのだとよく感じます。
『真実の行方』
大司教殺害事件で起訴された青年を、リチャード・ギア演じる敏腕弁護士が弁護する法廷サスペンスです。無実を訴える青年の弁護を進めるうちに、事件の意外な側面が明らかになっていきます。主人公の自信満々な弁護士ぶりも見どころですが、刑事弁護をする身としては、オチについていろいろ考えさせられるところがありました。
『十二人の怒れる男』
殺人事件の評決を任された12人の陪審員が、密室で議論を重ねる映画です。当初は有罪でほぼ一致していたものの、一人の陪審員が疑問を呈したことから、議論が思わぬ方向へ進んでいきます。ほとんど一つの部屋だけで、これほど緊張感のある映画が作れるのだからすごい。証拠の見方一つで結論が変わっていく様子は、法曹になってから見るといっそう恐ろしく、事実認定に対する自分の思い込みにも気を付けようと思わされます。
『ザ・ファーム/法律事務所』
トム・クルーズ演じる優秀な新人弁護士が、破格の待遇を提示する法律事務所に就職するところから始まるサスペンスです。しかし、働き始めると、事務所の裏に隠された秘密が少しずつ明らかになっていきます。若き日のトム・クルーズの勢いと、じわじわ不穏になっていく展開がたまらない法律サスペンスです。破格の待遇にはそれなりの理由があるという、就職先の法律事務所選びは大事だと思いました。
『評決のとき』
人種差別が根強く残るアメリカ南部を舞台に、娘を襲った男たちを射殺し、殺人罪に問われた黒人男性を若手弁護士が弁護する映画です。世論も感情も大きく動く事件で、それでも目の前の依頼者を弁護するとはどういうことなのか。最終弁論の締め台詞、弁護士の言葉一つで人の心が動くというのは、少し出来すぎにも思えますが、やはり憧れます。
『ペリー・メイスン』
アメリカの法廷ドラマの古典です。弁護士ペリー・メイスンが、殺人事件などで起訴された依頼者の無実を証明するため、独自に調査を進め、法廷で事件の真相を明らかにしていきます。法廷で真相を暴くという王道の面白さがありながら、そこに至るまでの調査の積み重ねも見どころです。現実には法廷で真犯人が突然自白してくれることなどまずありませんが、記録だけで分かった気になってはいけない、という戒めにはなります。
『アラバマ物語』
1930年代のアメリカ南部を舞台に、白人女性への暴行罪に問われた黒人男性を弁護する、アティカスという弁護士を描いた作品です。幼い子供からみた弁護士と法廷が一つの軸です。派手な展開に頼らず、アティカスの静かな強さだけで見せる、古典らしい風格のある映画です。弁護士としての格好よさにもいろいろありますが、いつかはこういう、声を荒らげなくても信頼される弁護士になりたいものです。
『コリーニ事件』
ドイツを舞台に、新人弁護士が国選弁護人として殺人事件を担当するところから始まります。事件を調べるうちに、ドイツの戦後司法が抱える問題が浮かび上がってきます。派手な法廷戦術よりも、新人弁護士が地道な調査から事件の核心に迫っていく過程が面白い。法律を知らないことは調べれば何とかなりますが、疑問を持たずに見過ごしてしまうことの方が怖いのだと感じます。
『虎に翼』
日本初の女性弁護士の一人、三淵嘉子をモデルにしたNHKの連続テレビ小説です。主人公が法律を学び、弁護士、そして裁判官として歩んでいく姿を通じて、日本の司法制度の歴史が描かれます。朝ドラらしい親しみやすさの中で、法曹界の歴史や制度の変遷が丁寧に描かれているのが面白い。今では当たり前のように使っている制度も、先人たちが苦労して築いてきたものなのだと思うと、日々の仕事も少し違って見えてきます。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』
自閉スペクトラム症で驚異的な記憶力を持つ新人弁護士ウ・ヨンウが、大手法律事務所でさまざまな事件を担当しながら成長していく韓国ドラマです。ウ・ヨンウは天才なので、知識やひらめきの部分では到底真似できません。それでも、知識があるだけでは仕事がうまくいかないことや、経験がないからこそ気付けることもあるという点は、普通の新人弁護士にも通じる話だと思います。
今秋から芦田愛菜主演の日本版が放映されるようです。
こうして並べてみると、法廷ものには、新人・若手弁護士が活躍する作品が本当に多いものです。経験のない弁護士が、いきなり大きな事件を任され、調べ、悩み、ときには失敗しながら依頼者のために奔走する。物語として描きやすいのだと思いますが、弁護士になって日が浅い今だからこそ、共感できる場面もあります。
もっとも、現実には、映画のような劇的な反対尋問も、法廷をひっくり返す新証拠も、そうそう出てきません。実際の仕事は、記録を読み、依頼者の話を聞き、分からないことを調べ、書面を書き、また記録を読む、という地道な作業の繰り返しです。それでも、そうした仕事の積み重ねが、映画で描かれるような弁護士の活躍につながっているのだろうと思います。
数年後に同じ作品を見れば、また違った感想を持つのかもしれません。今後の弁護士生活も楽しみです。








