べんべんリレーBLOG
第4回 理解と記憶とのバランス
企画委員会委員長 新谷俊彦
平成10年に新民事訴訟法が施行されて15年が経ち、もはや、新旧条文対照表を手にとることもなくなりました。しかし、当時、司法試験受験生だった私には、旧民訴の条文番号が総替えになってしまうことは悩みの種でした。それまで既判力と言えば当然199条と思っているのにこれからは114条で、その他の条文番号も全部変わるというのですから、なんとか新法施行前に試験を通過したい、と思っていました。
ところが、願いは叶わず、いよいよ来年は新民訴で受験、ということになりました。当時の民訴選択者は、多かれ少なかれ、厭世的な気分になっていたと思いますが、そんな中、受験生向けの新民訴の講演会があり、民訴学界の重鎮の先生が来演されました。
この時、先生は、受験生の気持ちを思いやって下さったのでしょう、解説の合間に、次々と新民訴の語呂合わせを教えてくれました。
・「選定30人でイシシ」選定当事者(30条・144条)
・「夜な夜な独立当事者参加」(47条)
・「いいよいいよで既判力、いい子に及ぶ既判力」既判力の客観的範囲(114条)・主観的範囲(115条)
・「訴え提起、勇み肌」(133条)
・「意欲に燃える釈明権」(149条)
・「いい頃に出せ適時提出」(156条)
・「以後は、いごくさ、ニーヨンヨン、ニャロメ」当事者の欠席に関する規定(158条、159条3項、244条、263条)
・「当事者照会いちろ(も)くさん」(163条)
・「文書提出義務、夫婦丸出し」(220条)等
これは、億劫な気持ちで新法準備を遠巻き眺めていた自分にとって、ずいぶん強力なカンフル剤になりました。
そうか!嫌がらずに条文番号をドンドン覚えればいいのか、と思い、先生のまねをして、その他の条文の語呂合わせも自分で作ることにしました。せっかくなので私のもいくつかご紹介しましょう。
・「死にそうな奴に補助参加」(42条)
・「はんけつなら必要的口頭弁論」(87条)
・「なんや、逃げろ、ひ弱、憎まれ、サイクロン」必要的口頭弁論の原則の例外(78条、256条、140条、290条、319条)
・「くさい期日の指定変更」(93条)
・「いくわ、証人尋問に」(190条)
・「つれない奴に当事者尋問」(207条)
・「ふいになんでも鑑定団」(212条) 等
「訴え提起、勇み肌」なんて名作は生まれるべくもなく、品のないものが多かったですが、それでもけっこうな数の語呂合わせができました。おかげで、各章節の冒頭の条文番号はすべて覚え、語呂合わせを作っていない条文も抵抗なく頭に入るようになりました。この時の嬉しさは、今も忘れられず、語呂合わせで覚えることを教えて下さった先生には感謝しています。
ところで、私は、ここ数年、ロースクールの入門者向けの授業を担当していますが、純粋未習の学生は、新しく出会う法律を3年間で次々にマスターしていかなければならないのでたいへんだなあ、と思います。当然ですが、その苦労は、民訴改正で条文番号が総替えになって困った、なんていう私の体験の比ではありません。
ただ、上記の私の体験から言えることは、覚えることで、気分的なものも含めて抵抗感が薄れ、前に進むこともあるという事実です。
また、暗記の弊害ということがクローズアップされすぎて、定義や制度趣旨等基本事項を意識的に覚える作業まで封印しているように見受けられる学生もいますが、一度本を読んだら自然に頭に残るという優れた頭脳の持ち主でない限り、それらは一言一句覚えこんだ方が逆に理解が正確になると思います。
今月からまたロースクールの新学期が始まりますが、記憶が理解を助ける側面があることを知り、理解と記憶とのバランスを図りながら、考える勉強を進めてもらいたいものと思っています。