べんべんリレーBLOG
第41回 重症化する趣味
企画委員会委員 小林恵
「趣味は何ですか」と聞かれたときに「音楽鑑賞です」と答えると,「あ,特に趣味はないんだな,悪いことを聞いてしまったかな」という空気が流れることがありますが,運動神経も芸術的センスもない私の場合,音楽,特にクラシック音楽鑑賞は,会話をつなぐための趣味ではなく,かなり本気の趣味なのです。しかも,朝早く起きるのが面倒だとか文句をつけてゴルフからも遠ざかる一方の昨今,この趣味の重症化が進行しているように思います。
重症化の自覚症状としては,以下の二点があげられます。第一に,同じ奏者の公演に複数回通ってしまうという点です。例えば海外オーケストラが来日する際には,複数のプログラムを用意してきて各地を回ったり,東京等の大都市で連日公演したりしますが,重症患者としては全部の曲を聴きたいので,大阪だけでなく名古屋,さらには東京方面まで遠征することになってしまうわけです。つい先日も,同じオーケストラの来日公演に計4回通い,完全に周囲を呆れさせてしまいました。
第二は,同じ曲のCDを何種類も購入してしまうという点です。このいわゆる「同曲異演盤」に対しては,楽譜がある以上どんな演奏をしても大きく違わないのではないか,というのが常識的な疑問だと思いますが,クラシックの場合,指揮者や演奏家によって,これが同じ曲かと思うほど違います(まあ,そういうことになっています)。私が偏愛するブラームス交響曲2番も(所有枚数は,恐ろしくて数えていません),演奏時間だけをみても,40分位から1時間近いものまでかなりの違いがあります。さらに,「1945年のフルトヴェングラー指揮の2番は,ナチスによる拘束を避けるため指揮者がスイスに亡命する前日の演奏で,緊迫感にあふれている」とか,「1989年のマズア指揮の2番は,ベルリンの壁崩壊直前のライプツィヒでのデモの無血化の立役者となった指揮者が,まさにデモ当日にラジオで市民に呼びかけた直後の演奏で,会場の高揚感が伝わってくる」など,どこからか仕入れてきた知識を振りかざして違いを主張し,何種類も買うことを正当化しようとするのです。
ところで,この「同曲異演盤」,重症なクラシック好きから延々と薀蓄を聞かされる危険を避けるための指標になるのではないかと思います。怪しい人と出会った場合,同曲異演盤を何枚持っているか聞いてみてください。10枚位という答えであれば要注意,20枚以上と言われれば,すぐに話題を変えることをお勧めします。
さて,私の重症化はどこまで進行するのかと考えているうちに,もう少し能動的に音楽と関わりたいなという気持ちも湧いてきました。せっかく企画委員会に所属させていただいているのですから何か音楽と関係ある企画,例えば毎年9月に開催され弁護士会館のロビーも会場の一つとして使われている「大阪クラシック」へのもっと積極的な参加の方法や,演奏会や講演会の企画等,いろいろ提案できれば楽しいのではないか等,妄想が膨らみます。もちろん,周囲の皆様のご迷惑にならない範囲で・・・。