べんべんリレーBLOG
第48回 機械との競争
出版委員会第4部会委員 福田あやこ
少し前に出版された「機械との競争」(エリック・ブリニョルフソン/アンドリュー・マカフィー著)を読みました。
産業革命のときには機械の登場によって大勢の職人が必要とされなくなったけれども、生産性があがったことで生み出された所得が別のことに使われ、新たな雇用を生み出したので、当初危惧されたように、失業者が増大し続けることはなかった。現代のIT革命でも同じことがいえるが、コンピュータ技術の進歩があまりにも早すぎて(指数関数的に進歩)、新たな雇用を作り出すという調整メカニズムが間に合わず、機械によって雇用が奪われてしまう、というようなことが書かれています。
コンピュータ技術の進歩の早さはすさまじく、例えば、2004年当時は自動車の運転などは自動化が極めて難しいと言われていたのに、2010年には自動運転車は1600キロも走行できるほどになったそうです(ただし、運転席には道路交通法を守るために人が座っていたらしい。)。
弁護士の業務は、自動化が難しいのであまり機械に浸食されることはないのでは?と思いきや、さにあらず。アメリカでは、裁判の前に双方が証拠を開示するというディスカバリーの手続が行われますが、従来多くのスタッフが時間をかけて作業していた「レビュー」をコンピュータにやらせたところ、従来の5000人分の仕事ができたと書かれています。しかも人間が行うより精度が高かった、というのが悲しい。
また、アメリカの有名なクイズ番組で、過去に最も優秀だった回答者がIBMの研究所が開発したコンピュータと対戦したところ、コンピュータが圧勝したそうです。そうであれば、法律分野に特化したコンピュータをつくるのは、技術的にはたやすいような気がします。
あと10年もすれば、依頼者から相談内容を的確に聞き出して法律的に分析をして、法律や判例を参照しつつ的確なアドバイスをしてくれる、ソフトバンクのPepper君みたいなロボットが作られるかもしれません。アドバイスを文書化して即座にプリントアウトしてくれるうえに、「明日は晴れますよー」と優しい励ましの言葉までかけてくれるんでしょうね。とてもかないません。
では私は、将来どうすればいいのでしょう。
比較的機械に置き換えられにくい仕事としてこの本があげているのは、庭師や美容師や介護ヘルパーのように、身体の動きと知覚とをうまく組み合わせる必要のある仕事、リーダーシップ、チーム作り、創造性のある仕事、です。
といっても、これらだけを使って弁護士業やるのは難しいですね。フットワーク軽くどこでも行きますよ、とアピールしても、誰もがITを使いこなすようになれば依頼者にとってたいしたメリットにはなりませんし、コンピュータにはマネできないような感動的な書面を書いたとしても、裁判官がコンピュータで書面を分析するようになれば、あまり効果がなさそうです。
もはや機械との競争をあきらめ、弁護士業が廃れる前に転職を考えたほうがよさそうですね。こどものころに、将来、仕事はぜんぶコンピュータがやってくれるので(もちろんお金も稼いでくれる)、一日遊んで暮らせるようになるといいなあと思っていましたが、そういう世の中にならないものでしょうか。