べんべんリレーBLOG
第53回 機械との協調
総務委員会委員 中尾太郎
「前例踏襲」という言葉には悪いイメージが付きまとうが、失敗したくないときには、前例踏襲に限る。たとえば、リレーブログに初めて記事を投稿するときなどである。
そのようなわけで前例踏襲をするべく過去の記事を読んでいたところ、驚くべき記事を発見した。
それは、「第48回 機械との競争」(出版委員会第4部会委員 福田あやこ弁護士)という記事である。この記事では、『機械との競争』(エリック=ブリニョルフソン(著)・アンドリュー=マカフィー(著)・村井章子(訳)、日経BP社、2013年)という本の内容に基づき、弁護士の仕事が機械によって置き換えられる可能性が高いことが指摘され、最後の方では「もはや機械との競争をあきらめ、弁護士業が廃れる前に転職を考えたほうがよさそうですね。」と書かれている。私よりも10年以上キャリアが長い先生のこの発言には、発言が半分冗談だとしても、驚かざるを得ない。先生ほどのキャリアがあって「転職を考えたほうがよさそうですね。」ならば、いったい私はどうすればよいのか。絶望してしまいそうである。
ただ、絶望だけではなく希望もありそうである。たしかに機械は弁護士の仕事に取って代わってしまうかもしれないが、それよりも先に、機械は、今までごくごく限られた人々にしかできなかった思考や情報の整理の方法を、私のような凡人にも可能にしてくれたからである。
たとえば、ある本では、思考を整理する方法として「手帖」・「ノート」・「メタ・ノート」という三種類のノートを作成することが薦められているが(『思考の整理学』(外山滋比古、筑摩書房、1986年))、この方法を紙のノートに手書きで実行しようとすると記入や転記さらには沢山あるノートの管理が面倒で、私のように忍耐力の足りない人間には到底、続けられなかった。ところが、「Evernote」、「One Note」、「Google Keep」などのソフトウェアないしウェブサービスを利用すれば、記入や転記さらには管理も簡単に行うことができる。
また、別の本では、カードを使った情報整理の方法が薦められている(『知的生産の技術』(梅棹忠夫、岩波書店、1969年))。しかし、この方法では「くりかえしくる」(同59頁)時にカードを検索するのが非常に面倒だし、時間もかかる。ところが、現在ではWindowsエクスプローラーのファイル検索機能が強力になり、カードを作らなくてもコンピュータにファイルを保存しておけば、タイトルや内容からファイルを検索することが簡単にできるようになった。
さらに、情報整理云々以前に情報量の問題として、「本を手許に集めることが力である」(『知的生産の方法』(渡辺昇一、講談社、1976年)104頁)と言われることがあるらしい。けれども、本は、置いておくだけでもスペースを取るし、そのようなスペースを確保するためには余計な家賃を毎月支払わなければならない。ところが、本をスキャンして電子データに変えてしまえば、そのようなスペースは不要になるし、余計な家賃も支払う必要がなくなる。
このように機械のおかげで、かつては忍耐力や時間やお金がある人にしかできなかったことが、私のような凡人にもできるようになった。
かつては限られた人々にしかできなかったことが、一部であっても凡人の私にもできる。ならば、まだまだ希望はあるのではないだろうか。いずれは機械との競争に敗れ弁護士の仕事が廃れる時が来るかもしれない。けれども、それまでは「機械との協調」によって弁護士の仕事を私は続けたい。
機械との競争に敗れ、本当に弁護士の仕事が廃れてしまった時には、進歩した機械に最適な転職先でも探してもらうことにしよう。