べんべんリレーBLOG
第70回 イソ弁の弁護士人生の設計
財務委員会委員 泉本和重
どなたが言い出したのか、伝統的に勤務弁護士は「イソ弁」と呼ばれました。
イソ弁のイソは居候の略だとか、イソギンチャクの略だとか諸説あるそうですが、いわゆる事務所の経営を担うボス弁(ボス弁護士の略と思われます。)から給与を貰う弁護士とのことです。
新人弁護士はすぐさま独立開業する即独弁護士、企業や自治体・官公庁に雇われる組織内弁護士など進路にバリエーションは増えましたが、大半はどこかの法律事務所で雇われてイソ弁となるのが多数派です。
そんなイソ弁も弁護士資格を得た以上は一人のプロとして弁護士業務に邁進するのですが、仕事に少しずつ慣れれば将来設計にも意識が向き、人生設計を考えることになります。
大きく分ければ、①独立開業する、②勤務先の事務所に残る、という二拓です。
独立開業は文字通り、事務所で雇われている立場から、事務所を構える立場になるというもの。
勤務先に残る場合とは、共同経営者(パートナー)になる、あるいはそのまま雇われ続けるというものが考えられます。
ところで、この独立する場合や、パートナーになる場合は、いずれも被雇用者ではないので、結局は自分の収入を自分で売り上げて得なければなりません。
一方で、イソ弁として労働力を給与に変換し続けるばかりだと、良い勤め人としての地位は築けても、顧客を獲得することが出来ず、独立することもパートナーになることもできないままとなり、そのまま雇われ続けるという選択肢が残るだけになります。
別段イソ弁のまま弁護士人生を全うするのも一つの選択肢なのですが、法律事務所の約93%は弁護士数5人以下、弁護士の約65%は5人以下の規模の事務所に所属しているのです(弁護士白書2014年版)。
ここで起きるのが、事業承継の問題です。
小規模零細事業者が大半である法律事務所において、経営者である弁護士(ボス弁・パートナー弁護士)が、高齢のためや不慮の事故等で弁護士業から引退するとき、そのままその事業(顧客、経営能力、営業能力)を引き継げるのか、という問題は、中小企業の事業承継の悩みとほぼ一致します。
もし、顧客がボス弁との人的繋がりで維持されているとしたら。
もし、ボス弁の引退までに、営業能力や事務所の運営能力を身に着けていなかったら。
ボス弁の引退後、事務所の状況、またイソ弁のその後の人生はどうなるのか。
結果として、イソ弁でも将来的に、営業能力や事務所の運営能力が求められるに至る割合は、かなり高いのではないかと思われます。
このような状況に鑑みると、イソ弁のイソは居候の略、という説明に則れば、いつまでも居候するのではなく、独立し、又は事務所の共同経営者として一人前になることへの期待も込められているように感じられるこの頃です。
なお、勤務弁護士をアソシエイト弁護士と呼称する事務所も増えてきましたが、規模の大きいところでも、アソシエイトとして勤め上げるのではなく、最長10年超程度でパートナーとして経営に参画するか、独立(あるいは他の事務所等に移籍)するとのキャリアプランが何となく見えるところです。すなわち、規模に関わらず、営業能力や事務所の運営能力を問われるのが現実なようです。
結局のところ、弁護士としての人生設計は、事業者として営業能力、事務所の運営能力を含めて一人前になることが前提で、その中では独立開業するか、共同経営者になるか、その実質にはさほど差は無いかと思うと、イソ弁の進む道は、弁護士業を営む限りは割と分かりやすいものなのかもしれません。