べんべんリレーBLOG
第83回 訴状を無視する人たち
不動産管理委員会委員長 広瀬元太郎
裁判所から訴状が届きました。普通、これは一大事です。弁護士に相談するなりして、何らかの対応がなされます。しかし、世の中には、訴状を無視する人がいます。「そんな大胆な!」と思われる方も多いと思いますが、結構な比率で存在します。
わが国を始め民主的な国家では、双方の当事者が裁判所に出頭して議論を尽くしたのだから、その結果下される判決は正当化されるのだと考えられています。したがって、訴状が届いたにもかかわらず裁判に来ない当事者は自己責任なので、不利益に扱われます(欠席判決といいます)。しかし、訴状が届かない以上は、裁判を始められない決まりがあります。
訴状は、特別送達という特別な郵便で、裁判所から被告(訴えられた側)に郵送されます。この郵便を被告が受け取った場合、その事実は郵便局から裁判所に伝えられ、裁判が始まります。しかし、被告が不在の場合は、書留と同様に、「不在者連絡票」が投函され、被告が郵便局に取りに行くことになります。訴状が届かないと裁判が始まらないということは、「訴えられるのに慣れている人」はみんな知っています。そのような人たちは、自分に不利なものをわざわざ郵便局に取りにいくことはありません。
そうすると、特別送達で送られた訴状は、「受取人不在」ということで、裁判所に戻ってきます。訴状が届いていないので、裁判は始まりません。これで終わりであれば、訴えられた人は訴状の受取を拒否すればいいということになってしまうので、このような場合にも、「訴状を届いたことにする手続」は、法律で用意されています。
その手続きには、①書留郵便に付する送達と②公示送達というものがあります。前者は、訴状の送付先に被告が住んでいることが判明した場合になされ、後者は、被告が訴状の送付先に住んでいないことが判明した場合になされます。
訴状が「受取人不在」で裁判所に戻ってくると、原告(訴えた側)の代理人は、訴状の送付先に被告が住んでいるのか否かを調査しなければなりません。
まずは、現地を訪問し、電気メーターを調べます。最近は、円盤の回る速度によって使用料がわかるメーターも減りましたので、2回ほど訪問して、デジタル表示の使用料を見ないといけなくなりました。裏に回って、洗濯物が干してあるかも確認します。そして、その結果、明らかに人が住んでいると判明して、裁判所に報告書を提出しても、「確かに、そこに人が住んでいることはわかりますが、被告が住んでいるかはわからないですよねえ。隣の部屋の人に、被告が住んでいるかを聞いてみて下さい」などと言われてしまいます。今どき、隣の人が誰なのか知っている人は少ないし、そんなこと聞いても怪しまれて答えてくれません。この作業は、結構大変です。
このような遣り取りを裁判所としながら(最近、裁判所も厳しくなってきました)、何度も調査をして、訴状が届いたという扱いになるのです。そして、やっと、裁判を始めることができるのです。
たしかに苦労はするのですが、いくら受け取りを拒否しても裁判を阻止することはできません。早く訴状を受け取って、訴訟の場で、正々堂々と勝負をしていただきたいものです。